2002.9.01 sun.
朝、起きてカフェオレとイチジクとヨーグルトで朝食(この夏の定番)。朝食の後、大蟻食はヴァイオリンを弾き狂う。お昼はちょっと出ることにして、自由が丘駅前の「銀節や」でラーメンを食べる。化学調味料を使わないオーガニック系のラーメン屋さんである。スープは濃い目のおすましという感じで上品。大蟻食は冷やしそば、わたしはネギ入りそば。オプションでチャーシューを別皿に(その都度切り分けて、日によってネギやホウレンソウでトッピング)。食べ終えた後お茶をして、大蟻食はそのまま聖歌隊の練習へ行く。わたしは家へ戻り、机に向かって頬杖を突く。そのうちに眠たくなってくる。夕方、大蟻食と落ち合って買い物へ。熊野神社の祭礼があるからなのか、あるいは夏休み最後の日曜日だからなのか、自由が丘駅周辺はすごい人手である。東急ストアの中もとんでもない混雑で、機嫌の悪そうなこどもたちが徒党を組んでうろうろとしている。ピーマンと挽き肉と卵を買ってまっすぐに帰宅。家にあったザワークラウトの残りを使って大蟻食がピーマンの挽き肉詰めを作る。サワークリームを皿に盛って、リサーチ200Xを食べながらごはんを食べる。そうか、慢性疲労症候群の原因のいくらかはQ熱だったのか。

2002.9.02 mon.
「お騒がせ絵師自伝」エリック・へーボン(朝日新聞社)を読み終える。古典素描の「贋作」を大量に製作・販売していた画家の回想録である。少なからぬページが自己弁護と正当化に割かれているし、そのせいで事実関係が疑わしく見えるようなところもあって書かれていることを間に受けたら危なそうな、つまりそういう意味では実にまっとうな回想録だということになるのだが、興味深いのはそうした回想録的な部分ではなくて、創作の対象を見つめる時の画家としての視線がまさに画家としていかに機能されているかが記述されていること、そしてそうした機能が歴史的素描の再生産という行為に応用される場合の技術的な過程が詳しく説明されていることなのである。風景画を描く時に、才能ある画家が眼前の風景をどう認識しているか、ということの片鱗が見えて面白い。思うにこのあたりの視点を実感としてつかむことができないので、小説に芸術家を登場させて、それをそれらしく見せるのが難しいのであろう。そうした能力を備えていれば、小説家にではなく画家や音楽家になっている筈だからである。その難しさはゾラが野心的な失敗作「制作」で証明している。クロソウスキーは画家兼作家で絵画的な文章を書くけども、どちらも本業であるようには思えない。例外的に両方とも成功させているのはマービン・ピークくらいしか思いつかないのである(とはいえ、挿し絵画家としての才能だけど)。

2002.9.03 tue.
「合衆国復活の日」ブレンダン・デュボイズ(扶桑社ミステリー)を読み終える。いわゆる歴史改変物で、キューバ危機がそのままキューバ戦争になって、第三次大戦が起こってロシアは消滅し、アメリカも核攻撃を受けて主要都市が消滅し、それから10年後という話である。だからベトナム戦争は軍事顧問団投入の初期段階で終わっているし、アメリカは経済的な復興を得られないまま二流国に転落している。つぎはぎの服を着て外国から食糧援助を受けながら食うや食わずの生活を送り、アメリカの市民はそのことに恥を感じているのである。それにしても、10年が経過してもまだ事実上の軍政下というのは無理がないかと思っていたら、いちおう理由がありました。そこまで単純で厚みに乏しい国ではなかろうという気がしたけれど、それなりにカラフルで感動的に仕上がっていたので文句はない。読んでいるうちになぜか 「ニューヨーク1997」 を思い出したけど、こういう反応はもしかしたら不謹慎なのだろうか、とちょっと悩んだりもする。あと、これを読んでから「モグラびと」(ジェニファー・トス、集英社)を読むと面白いかもしれない。

2002.9.04 wed.
蒸し暑い。 「ニューヨーク1997」 のことを思い出したらまた見たくなってしまったので近所のビデオ屋へ。棚を探しても見当たらないので店員にたずねてみると、置いていませんという返答である(ちゃんと在庫を調べてくれたけど)。こういう店が生き残って、なんでもカウンターの裏に隠してある良心的な小さな店が潰れてしまうのである。TSUTAYAまで行く元気はなかったし、 「エスケープ・フロム・L.A.」 はあったので、こちらを見ることにする。

2002.9.05 thu.
ちょっと蒸す。大蟻食はレーズンサンドを探してモンブランへ。冬場しかやっていませんと言われてリーフパイとケーキを買って戻る。ついでに見たこともない緑色のブドウも買ってきていて、試しに食べてみると野蛮な甘酸っぱさといったような味がした。新機軸ということで、夕食は牛丼の松屋へ。ここ数日、前を通るたびに「うまトマハンバーグ定食」という幟が目に入って、「なんだろう?」と気になっていたのである。とはいえ実際に注文したものは大蟻食がチキン唐揚げ丼、わたしが牛丼。唐揚げ丼はおいしかった模様、牛丼も悪くはない。帰宅して、一緒に 「コラテラル・ダメージ」 を見て、床に入ってから「サクラテツ対話編」下巻(藤崎竜、集英社)を読む。この「サクラテツ」だけど、大蟻食に言われるまで、わたしは「ソクラテス」の"訛り"であることに気がつかなかった(哲学系からの命名がやたらと目につくので変だなとは思っていたんだけど)。上巻からのパワーは保たれているが、脱構築が前近代的なレベルで終わってしまうのは作者の好みか、それともジャンプというメディアの制約か? ちなみに最近読んだマンガは、あとは「ONE PIECE」(尾田栄一郎、集英社)25巻と「20世紀少年」(浦沢直樹、小学館)10巻、それと「HEAVEN?」(佐々木倫子、小学館)4巻、うざったいので「ジパング」はやめ。「ONE PIECE」は変わらずに絵の雄弁な少年マンガである。「20世紀少年」の方は、話の引き伸ばした方がちょっといやになってきてるかも。「HEAVEN?」はオーナーのパワーアップぶりが大蟻食に受けている。どうやらああいうひとになりたいらしい。

2002.9.06 fri.
雨。ときどき激しい降りになる。ちょっと用足しに郵便局へ行ったら「麺類お好きですか?」と訊かれて、「好きです」と答えたら「めんグルメ」のチラシをくれた。なにしろこちらは物質文明の薫陶を受けたとてつもなく愚かな消費者なので、こういうチラシを見るとすぐに「ちょっとおいしそうかも」などと考える。昼食はガスパッチョとアボガド(この夏の定番)。午後からわたしは日本SF作家クラブの総会へ。大蟻食は仕事場の工事があるので家に残る。帰宅すると工事現場の片付けが始まっていた。残るのは若干の配管と清掃のみ。夕食を食べながら「TRICK2」の4巻を見て、お茶をいれて5巻を見る。

2002.9.07 sat.
終日、空に雨雲が浮かんでいる。「サキャ格言集」(岩波文庫)をぱらぱらとめくってみたけれど、東洋(13世紀、チベット)的な辛口の格言というのは少しばかり実用的で、わたしの趣味ではない模様。大蟻食は午後から学校へ。わたしはひとり残って 「ヴァンパイア・ハンター」 を見る。これはだめ。 夕方、大蟻食と落ち合ってゴンゾの家へ。ゴンゾは眠っていてばかりで遊んでくれない。食事をして、帰宅。久々にワインを開けて、 「マリー・アントワネットの首飾り」 を見る。これもだめ。

2002.9.08 sun.
ゆっくり起きて朝食。メンデス・ピントの「東洋遍歴記」をぱらぱらとめくる。お昼はベトナム料理の「ダラート」へ。ここのおばあさんが巻いた生春巻はうまい。お茶をして、それから渋谷へ出て東急ハンズで大蟻食の買い物をいろいろ。上へ下へと動き回ったので自由が丘へ戻った時には少々くたびれていた。東急ストアで夕食の買い物。食事の後はお茶をいれて、古いビデオの山から何本か再生して状態をチェックする。そこそこに良好。

2002.9.09 mon.
雨っぽい。大蟻食の仕事場の改装が終わった。夕方、新宿方面に稲光を見る。終日、気温は30度に届かない。

2002.9.13 fri.
いろいろとあって少々疲れ気味。元気を出そうと思って夕食の後、ワインを抜いて 「オリエント急行殺人事件」 を鑑賞する。少し回復。

2002.9.14 sat.
なんとなく机に向かっているうちに夕方になり、お昼ご飯を食べていないことに気がついて冷蔵庫の中のもので適当に済ませる。わたし一人ではなく、大蟻食と二人で足並みそろえてこうなることがまれにある。だから夕食は簡単かつ早めにということで、例のオーガニック系のラーメン屋「銀節や」へいって「こってりそば」というのを注文する。別に豚骨系ということではなくて、まるで鰹節を飲んでいるような味で、サカナ成分が一気に全身にまわるのを感じるという不思議な経験をさせてもらった。おいしいけれど、サカナ成分が決して得意ではないわたしとしては少しこたえたのである。帰宅して、まずドイツ製の 「アナトミー」 を見て、ワインを飲みながら大蟻食と一緒に 「ヤマカシ」 を見る。

2002.9.15 sun.
はなはだしく落ち込み気味。自由が丘ピーコックの改装が終わり、13日から新装開店しているということで大蟻食と一緒に見物に行く。全体に高級志向を目指したような気配がある。1階の食料品は品のよいテイクアウト用という感じでよくまとめられて、ポール・ボギューズのパン屋さんもおいしそうだし、ワイン売り場も面白い。しかし地下の食品売り場からベーコンのブロックの量り売りが消えていたのは、これからのシーズンの我が家にとって致命的かもしれない。ザワークラウトと一緒に煮込むのである。3階の売り場の陳列は100メートルほど離れたところにあるTimeless Comfortという雑貨屋にそっくりであった。

2002.9.17 tue.
お知らせです。しばらく前に "DASACON 6" へのリンクを追加しましたが、さらに "DASACON6 ゲスト掲示板" へのリンクを追加しました。ここに質問を書き込むと、DASACON6で高野さんやわたしが回答することになるのだそうです。

2002.9.20 fri.
ゆうきまさみ「KUNIE」5巻を読む。慌しく結末がつけてあるけれど、それだけで、それまでに播かれたタネはほとんど回収されていない。悲しいぞ。それから宮崎駿の「泥まみれの虎」(大日本絵画)を読む。なんだかいつもどたんばで仕上げているような感じがする。もう少しこの人に時間と場所を与えることはできないのだろうか。とはいえ、それでもすごいところがやっぱりすごい。「悪役一号」はアニメにしてくれないのかな。

2002.9.20 fri.
ふと思い立って本棚の整理を少しだけやってみる。そもそも収容能力の限界を超えて詰め込んであるので、引っ張り出した後で元へ戻すのが至難の技である。結局、きれいには収まってくれなかった。これはやっぱり棚の一部ではなくて全部を対象にして、一度配置を考えないといけないのかもしれない。それにしても床に残ってしまった「宇宙船」と「B-CLUB」と「STARLOG」の山はどうすればいいんだろ。おまけに「宇宙船」の「海外ビデオ・セレクション」が見つからないのである。どうにかその場を片付けたところで木城ゆきとの「銃夢 LAST ORDER」3巻を読む。やっと話が進み始めた感じ。それと奥浩哉「GANTZ」7巻を読む。残念ながら、やはりわたしの趣味ではない、と一冊読むごとに思っているのだから世話はない。夕方、大蟻食と一緒に買い物に出て、お肉屋さんでレバーを買う。大蟻食のレバーのソテーはおいしいのである。夕食はこれとサラダと茹でたブロッコリー。ジャーマンブレッドを何枚か切って、おいしく食べながら 「ソウル」 を見て、食べ終わってからワインを抜いて、 「アメリカン・サイコ2」 を見る。

2002.9.21 sat.
遅く起きて朝食。お昼はスペイン風のパンスープ。大蟻食は午後から仕事。わたしは美容院へ。かなり短くしてもらう。混んでいたので出てきた時にはもう暗くなっていた。いったん家へ戻って、大蟻食と一緒に出直してからお茶をして、それからピーコックでサラダや揚げ物、エールやモルトビネガーを買って帰宅する。エールを飲みながら揚げ物にモルトビネガーを注ぎ、サラダをぱくつきながら 「WASABI」 を見る。どうして 「ソウル」 はこうならないのか? エールの後はワインということで、パンにチーズを山盛りにしてまたぱくつきながら 「キス・オブ・ザ・ドラゴン」 を見る。ジェット・リーはちゃんと年を取れるのか、と大蟻食が心配していた。ところでポール・ボキューズのパンって初めて食べたけど、あまり感心できなかったのである。よくあることだけど、売ってる店によって違うのだろうか?

2002.9.22 sun.
起きた直後からひどい停滞状態へ。無気力にはまり込んで何もできないのである。うまくいかないことがあるからであって、朝食に食べたポール・ボキューズのペストリーがいまいちだったからではない。ということで停滞状態から脱出するために昼間から 「ダゴン」 を見る。元気な映画だ。ついでに 「マンタ」 とかいうのも見たけれど、これについては思い出したくない。わたしがビデオを見ている間、大蟻食はバイオリンを弾いていた。夕方から雨。一緒に買い物。夕食は大蟻食が「久田大吉の中国料理馳走録」のレシピで作った担々湯麺。おいしい。テレビの前で並んで食べながら「リサーチ200X」を見て、その後なんとなく「K-1 誰が一番強いんだ決定戦」とかいうのを見る。話には聞いていたけれど見るのは初めてで、いまひとつ面白みがわからない。大蟻食とわたしは前に一度だけ、友達に誘ってもらって後楽園でプロレスを見たことがあるけれど、その時もよくわからないことが多かった。やはりこれはそれなりに没入しないといけないのであろう、などと考えているうちに眠くなる。結局、停滞状態からは脱出できなかったのである。気がついたら 「ロック・ユー」 がまた見たくなっていた。

2002.9.23 mon.
終日机に向かっていた。

2002.9.24 tue.
夜、大蟻食と一緒に渋谷へ出て 「サイン」 を見る。渋東シネタワーの最終回で6割の入り。傑作。見終わった後、赤坂へ移動してとあるバーへもぐり込む。ワインを飲みながら待っていると巽・小谷夫妻、高原・佐藤夫妻、井村恭一さん、南條竹則さん、そして西崎憲さん等がやってくる。西崎さんは今年の日本ファンタジーノベル大賞の大賞受賞者なのである。みんなでお祝いの乾杯をする。「ショート・ストーリーズ」、早く読んでみたいぞ。

2002.9.27 fri.
風邪を引く。ビデオ屋へ行ったらBBCの 「ゴーメンガースト」 が出ていることに気がついて、早速借りて半分見る。やはり字幕はあった方がよい。

2002.9.28 sat.
大蟻食は朝から慶応義塾へ。講義初日である。
夕方から大蟻食と一緒に中目黒へ。東横線の高架の下にあるオーガニック系の(なんと言うのだろうか、つまり)お店へ行く。道順を間違えて到着までに二度迷子になった。 大串尚代さん の初の著作、「ハイブリッド・ロマンス」( 松柏社 )の盛大な出版記念パーティである。大串さんにお祝いを申し上げる。大串さんに婚約者という方を紹介してもらう。これは美男美女である。米文学会の先生方がスピーチをする。大蟻食もスピーチをする。巽・小谷夫妻、高原・佐藤夫妻に挨拶をする。東浩紀氏がわたしの服装を批判する。大下さなえさんから現代詩の現状について貴重なお話をうかがう。ケルト音楽家のYASUKOさんから、以前いただいたCDのジャケットに使ったという写真を見せてもらう。青々とした野原に子馬がぽつんと立っている写真である。あまりファンタジックなので作った写真かなと思っていたら、アイルランドで撮ったそのままだという。ファンタジックな土地なのであろう。まだ復調していないので一次会で失礼して帰宅して、 「ゴーメンガースト」 の残りを見て寝てしまう。

2002.9.29 sun.
「サウスパーク」のDVDの8巻と9巻を買う。お昼ご飯を食べながら8巻を見て、晩ご飯を食べながら9巻を見る。セクハラ・パンダの歌が頭の中でこだましている。

2002.9.30 mon.
いくらか回復してきた模様。大蟻食はバイオリンを抱えて午後から早稲田へ。後期の講義が始まったのである。わたしはひとり家に残って 「ネイムレス」「メメント」、 そして 「パニック・ルーム」 と順に鑑賞する。続けざまに3本見ると、さすがにくたびれる。とりあえず「メメント」がいちばんかな。見終わった頃に大蟻食が帰宅、ワインを開けて、パンを切って、ハムとチーズを食べながら性懲りもなく劇場版 「サウスパーク」 を見物する。やっぱりパワフルなのである。終わった後で大蟻食がフランス版「サウスパーク」のDVDを引っ張り出してきて、熱帯雨林のエピソードを見始める。フランス語吹き替えである。台詞はきちっと入ってはいるけれど、こどもたちの声が悪趣味な大人声になっていて全然かわいくない。
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