2000.12.01 fri

12月である。あと一ヶ月で21世紀が来てしまうのである。21世紀と言えば、未来の代名詞である。まだ小学生だった頃、1970年がやってくると世界はいっせいに未来へと移行するのではないか思って心配していた。何を心配していたのかはよくわからないが、未来世界というものにとてつもない不安を感じていたのだと思う。不安を感じながら、こども向けの未来図鑑を繰り返し繰り返し読んでいた。未来がどんな世界かを絵入りで説明してあって、エアカーだの怪しい都市だの気象コントロールだのの話が載っていて、大陸横断高速道路を作るために核爆弾でチベットを吹っ飛ばすような話が書いてあった。地道にやってくる未来というのは、想像できなかったのであろう。騒々しく押し寄せてきて、すべてを蹂躙して去っていく未来を想像して不安を感じていたのだと思う。大蟻食がペペロンチーニとチーズの2種類のスパゲッティを作ったので、夜はそれを食べながら 「ロミオ・マスト・ダイ」 を見る。ヒットしたってのは本当なのか? 大蟻食がワインを開け、引き続き、 「タタリ」を見る。


2000.12.02 sat.

ゆっくりと起きて、前の日に買っておいたデニッシュで朝食をとる。天気がいいので窓辺の椅子に座って足を伸ばし、ぼーっとしていた。ぼーっとしているうちに未整理のマンガの山に目がとまり、その中に埋まっていた六鹿文彦の「脱走急行」を手に取ってなんとなく読み始める。戦車オタクの書いたマンガである(たぶん)。マンガそのものはとにかくとしても、登場する多砲塔戦車のデザインはなかなかのものなのであった。昼過ぎ、大蟻食は一人でジムに行ってしまった。わたしはマンガを読み続ける。わたしはマンガを読むのが遅いのである。昼食を大蟻食が泳いだ帰りに買ってきたモンブランのヴェッケンとクロワッサンで済ませる。夕食には先日、たまたま「どっちの料理ショー」を見て以来(うちではたまにこれを見る)悲願となっていたマカロニのグラタンを食べる。食べながら 「エリン・ブロコビッチ」 を見た。


2000.12.03 sun.

エミール・ゾラ「制作」をようやく読み終える。寝る前にベッドの中でしか読まないので時間がかかったのである。「居酒屋」のヒロイン、ジルヴェーズと愛人ランティエの間に生まれたクロードは事実上の印象派である「外光派」の技法上の創始者となるものの、不遇のまま未完の大作の制作に溺れて遂に芸術表現の限界に達して自殺する。作中にはゾラ本人を思わせる作家が登場するし、この岩波文庫版の解説によればゾラにはセザンヌほか印象派の画家たちとの交流があったということで、話の背景は実話が基になっているらしい。とはいえ画家クロード・ランティエの運命を最初から最後まで不遇のままと位置づけたことでゾラお得意のジェットコースター小説にはなっていない。個人的にはここが肝心なところで、例によって後半、下り坂をごろごろと転がっていくものの上りの部分がまるでないため落差が乏しい。つまり落下に伴う重力エネルギーを十分に感じることができないのである(クロードの妻クリスティーヌの我慢に我慢を重ねた最後の爆発はものすごいけど)。時代とその状況を写真的に活写するという点では言うまでもなく重要な作品だが、小説を用いて芸術家の芸術的野心を描くことは、ともすればそのまま停滞を意味するということを我々に教えてくれる。登場人物の野心に加えて作家の野心もまた芸術的なモチーフとして前景化するので、熱情ばかりが先に立って構造が希薄になるのである。


2000.12.08 fri

大蟻食は昼から慶応大学のシンポジウムへ。夜、一緒に「アリー・マイ・ラブ2」の10巻を見る。


2000.12.09 sat.

朝からつまらないことで喧嘩をする。大蟻食とわたしは時々喧嘩をするが、理由はたいていつまらないことである。午後、仲直りをして恵比寿のガーデンプラザへ。まず前日のシンポジウムで使ったビデオをTSUTAYAに返し、それからタイユバンの下にあるパン屋へ行く。ここで大蟻食用のオリーブの入ったパンを買い、マカロンが目に入ったのでフランボワーズ、チョコレート、シトロンの3種類を買い求める。ふだん食べているダロワイヨのマカロンに比べると、随分と大きくて味も濃い。フランボワーズがいちばんおいしかったと思う。シトロンはちょっと味を作りすぎ。夕食の献立に迷って三越方面へ潜り込んでいったが、ここは商品構成が今一つ不徹底で魅力がない。結局、夕食にはありあわせのハムやキッパーでサンドイッチを食べることにして、恵比寿駅へ戻る途中の神戸屋でジャーマンを半分購入する。家に戻り、サンドイッチを食べながら 「私家版」を見た。 評判のいい映画だと聞いていたので期待していたのだが、見終わった後、わたしたちはどちらも欲求不満を感じていた。ということで大蟻食が立ち上がり(わたしはすでに就寝の準備を終えていた)、地元のビデオ屋へ走って「アリー・マイ・ラブ2」11巻を借りてくる。そうか、ジョージア・トーマスは音痴だったんだね。


2000.12.10 sun.

ほとんど寝ていたような気がする。寝ている状態で鳥山明の「サンドランド」を読み返す。数日前に買ってすでに読み終えていたが、まだ枕元に置いてあったのである。1巻読み切りという都合なのか展開をネームに負いすぎている感はあるものの、懐かしくて心地の良い世界に出来上がっている。登場する戦車はいかにも漫画的な姿をしているが、それでもちゃんと機能的にデザインされているところがまたよろしい。


2000.12.15 fri

星野之宣自選短編集「MIDWAY 歴史編(集英社)」を購入する。もったいないからすぐには読まない。ビデオで 「タイタン A.E.」 を見る。


2000.12.16 sat.

まず星野之宣「MIDWAY 歴史編(集英社)」を読む。平賀源内の話は初めて読んだ。午後からあの「Xファイル」のクリエーター、クリス・カーターによる「ハーシュ・レルム」に取り掛かる。ペンタゴンが開発した戦争シミュレーターを舞台とする一種のバーチャル・リアリティものである。予告編はなかなか期待させる雰囲気だったので期待して見てみたが、どうもあまりよろしくない。結局、「Xファイル」にしてもそうなのだが、わたしは謎が謎を呼ぶような大陰謀が苦手なのである。謎はただ謎めいているだけで格別の魅力があるわけではなく、そんなものをいちいち追っていくのは面倒くさいと考えるからである。謎のかけらも使わずに同じ対立関係を一話完結で無限増殖させていく「ダークスカイ」の方がよほど面白い。加えて仮想空間に説得力がない。おおむね現代という設定の筈なのに、「ハーシュ・レルム」には少なくとも北米大陸全部とアルゼンチンが存在している。しかも消し忘れのアルデンヌまであるという広さで、そんな馬鹿でかいデータ空間をいったいどうやって確保しているというのだろうか。これに比べると同じ仮想空間でもアリゾナの先は予算の関係でワイヤーフレームになっている 「13F」 には説得力がある。取り敢えず1巻2巻とまとめて見たけれど、たぶんもう見ないであろう。続いて鑑賞した 「レインディア・ゲーム」 も謎が多いと言えば多い映画だったが、余計なもったいをつけずに5分ごとに「実は」という展開でやっていた。こういうのは面倒くさくないのでいいと考えるのである。


2000.12.17 sun.

「居酒屋」と「ナナ」をぱらぱらと読み返していた。


2000.12.22 fri

月曜から新潟に帰っていた大蟻食が帰宅。風邪をひいているというので少しはおとなしいかと思ったら、やっぱりそういうことはなかったのである。しかも風邪を拾ったのは新潟ではなく、東京についてから立ち寄った八重洲ブックセンターであるという。たしかのあの建物の一階はいつも空気に妙な棘があって、一巡して出てくると肩や背中が重たくなっていることがある。ということで夕食は簡単に済ませてビデオで 「ミッション・トゥ・マーズ」 を見る。何これ? ただできが悪いだけではなく、美術やいくつかの挿話がそのまま 「2001年宇宙の旅」 からのいただきなのであった。人類は有人木星探査計画の端緒にもかかれないだけではなく、32年前の映画の真似をしている。続いて 「地底探険」 を見たけれど、これも何これという仕上がりで、しかも監督はジョージ・ミラーでもあのジョージ・ミラーではなく、全然別のジョージ・ミラーだった。


2000.12.23 sat.

大蟻食は風邪を引いているので聖歌隊の練習を休むことにする。日中のうちに買い物を終え、年賀状の宛名書きも済ませて夕刻、まず、わたしの実家へ。この12月で八歳になったゴンゾのご機嫌をうかがい、それから巽孝之氏・小谷真理氏のホームパーティへ。いろいろと飲み食いをさせていただく。酔って人の家の棚を勝手に漁り、人の家のビデオを勝手にいじって 「スターシップ・トゥルーパーズ」 を見始めたのはわたしです。ちなみに大蟻食も人の家の本棚を勝手に漁っていたから、来年はもう呼んでもらえないかもしれないという気がする。


2000.12.24 sun.

昼頃に起きて朝食兼昼食を食べに外出する。けっこうな人出である。食事の後、カレンダーや手帳のリフィルを買うために二子玉川へ。こちらもたいへんな混雑なので早々に撤退し、自由が丘に戻ってモンブランへ。注文しておいたケーキを取りにいったわけだが、実はこういうクリスマスめいたことをするのは初めてで、したがって24日にモンブランを訪れるというのも初めてということになる。ショーケースの前には文字どおり黒山の人だかりがあり、店内はさながら戦場のようであった。あまりの迫力に気おされて取るものだけ取って飛び出してきた。気持ちは「おうちに帰りたいよお」といった感じになっていたが、大蟻食が紅茶を買うというので"LE PALAIS DES THES"へ。なお、ここのイニシエーション・セットというおそろしげな名前の詰め合わせは贈り物に最適で重宝している。
夜、食事の後で白ワインを抜き、ケーキを切り、二人並んでなぜか 「グラディエーター」 を鑑賞する。やはり冒頭の戦闘シーンはよくできているのである。


2000.12.25 mon.

本日、四十歳になりました。


2000.12.26 tue.

四十歳になったといっても、それですることが変わるわけではない。ほら、 「トーマス・クラウン・アフェアー」 のピアース・ブロスナンだって年齢設定43で、姑息な身振りで出っ腹を隠してけっこう恥ずかしいことをやっていたではないか。あの光景にはずいぶんと(気持ちが)助けられたぞ。
TSUTAYAで久々に「サウスパーク」をチェックしたら、なんと7巻以降がぞろぞろと出ているではないか。ということで早速7,8,9巻を借りていそいそと家に戻って鑑賞する。「テレンス&フィリップ特別編」はちょっと苦しい。「ママはやりたガール(解決編)」は話をもたせすぎだったのかも。結局借りてきた3巻全部を見て、「あずみ」の20巻を読んで寝てしまう。


2000.12.27 wed.

前日、3巻続けて見た勢いで残りの「サウスパーク」をと考え新宿TSUTAYAに寄ったらなんと全館停電で中へは入れないという(午後6時頃)。エスカレーターの下で借りていた3本を返して自由が丘に戻り、そのまま家には戻れないということで地元のビデオ屋で「アリー・マイ・ラブ2」の12巻を借りる。やっぱアリーは病気だと思う。



2000.12.28 thu.

仕事納め。帰宅の途中、TSUTAYAに寄って「サウスパーク」の10,11,12巻を借りる。水疱瘡のエピソードはけっこうパワフル。ロバート・レッドフォードが登場する映画祭のエピソードも極悪で悪くない。インデペンデント系映画のパロディがなかなかに楽しい。


2000.12.29 fri.

日中、いちおう年末なのでばたばたと過ごし、夜はわたしの実家へ。弟の奥さんの実家から魚が沢山届いていたのである。さんざんに飲み食いをして、アジの丸干し、タチウオの干物などを強奪して帰宅する。寝る前に 「ステュアート・リトル」 を観賞する。「ネズミもの」という分類でくくってしまっていいのなら、 「マウス・ハント」 の方が好き。


2000.12.30 sat.

日中、いちおう年末なのでばたばたと過ごし、夜、大蟻食が「これを見る」というので二人で並んで 「ブレイクファスト・オブ・チャンピオンズ」 を見る。なんじゃこりゃ。「なんじゃこりゃ」と言いながら巻き戻し、引き続き 「コード:ゼロ」 を見る。なんじゃこりゃ。


2000.12.31 sun.

いちおう年末なのでばたばたと大掃除を開始する。前日までいったい何をばたばたとしていたのかさっぱりわからないが、とにかく家の中はまったく片付いていない。
昼過ぎ、わたしの両親がやってきて大量の餅を置いていく。これで餅を買う必要はなくなった。わたしの母はいつものようにわたしの本棚を検分し、藤崎武男「歴戦1万5000キロ(中央公論社)」だとかR・F・ニューカム「硫黄島 太平洋戦争死闘記(光人社)」とかマーク・ボウデン「強襲部隊(早川書房)」とかを持ち去っていった。「歴戦1万5000キロ」は副題が「大陸縦断一号作戦従軍記」で、第二次大戦当時、陸軍の中隊長であった筆者がいわゆる北支を出発点に中国を南下し、ベトナムに入り、さらにマレー半島に先端に達して終戦を迎えるまでの従軍記録である。しかも中国からベトナムまではほとんど徒歩なのであった。洋の東西を問わず下級将校の従軍戦記はしばしば文学的な色彩が強く、時としてそれが装飾に見えることがある。この「歴戦1万5000キロ」もその例外ではないが、善悪のいずれについても隠し立てをしないで記述するという姿勢は勇敢そのものと言わねばならない。一読に値する本である。ニューカムの「硫黄島」は硫黄島の戦いについての古典的な著作であり、日米双方の行動を軍事史的な視点から公平に記録している。これも一読に値する本である。ボウデンの「強襲部隊」はアメリカ軍のソマリア派遣に関する慎重なルポルタージュで、これもまた一読に値する本であることは言うまでもないが、母は読むのであろうか? 
夕方までかかって大掃除をすませ、それから外出する。大晦日にはいつも行くコーヒー専門店でブルーマウンテンを飲むことになっているのだ。すぐに帰宅して大蟻食は夕食の支度。白菜と肉団子の煮込みの仕込みだけして後の調理はスローポットに一任し、まず恵比寿ガーデンプレイスへ。タイユヴァン・ロブションのパン屋でオリーブ入りのパンを買うためであったが、着いてみるとここは30日から休みに入っていた。ワイン・ショップの方は今日まで開いていたのだが、パン屋の方はレストランと連動していたのだ。そこで恵比寿駅ビル内の神戸屋で何か買うことにして来た道を戻る。この往復はけっこうな距離だ。で、神戸屋ももう閉まっていて、やむなく渋谷へ出て東急東横店のサンジェルマンでブールなどを少々購入する。そしてそのまま駅前ロータリーを横断して東急文化会館へ。大蟻食とわたしは大晦日には映画を見ることになっているのである。 「ヴァーティカル・リミット」 を見て帰宅する。実に見事に仕上がった白菜と肉団子の煮込みで夕食。
と、ここまで書いて、ふと耳を澄ますと大蟻食がなにやら騒いでいる。時計を見たらもう2001年になっていた。 <21世紀へ続く>


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