2000.05.01 mon.

大蟻食は朝からジムへ。昼に待ち合わせをしてピザ屋のテラスでゴルゴンゾラ・ソースのピザとチョリソのピザ、トマトの冷製パスタとデキャンタのワインを注文する。天気がよくて気持ちのいい風が吹いていて、料理はおいしい。珍しく幸せな気持ちになった。
夜、ビデオで 「ブロークダウン・パレス」 を見る。


2000.05.02 tue.

朝から渋谷へ 「イグジステンズ」 を見に行く。上映一回目で、観客はわたしたちを入れて10人少々というところか。見終わった後、大蟻食がこれは「くそゲー映画」だと罵り始める。わたしも同意見だったので二人で罵りながら公園通りを渡り、お腹が減っていたので屋台のドネル・ケバブを食べる。それからNHKの放送センターへ行き、BSデジタル・フェアなるものを見物する。コンテンツを含むソフトウェアの展示は予想以下で、ほとんどハードばかりの出展であった。やはりこれは蓋を開けてみないと誰にもわからないのであろう。勝手に納得してタワーレコードへ。「THE RAISE OF COMMUNISM(共産主義の勃興)」「THE RAISE OF FASCISM(ファシズムの勃興)」を購入。どちらも演説と政治的に企画された当時の音楽で構成された一種の歴史資料である。家に帰って聞いてみる。共産主義者の音楽はひどく軟弱で、しかも変調が多すぎて歌いにくいことが判明した(「インターナショナル」はやっぱり傑作だが)。それに比べるとナチの単細胞な音楽は人間を恥ずかしいほど高揚させる。突撃隊のHORST WESSELを聞いていたらちょっと気分が悪くなってきたので一緒に買ってきた「ジャンゴ」のサントラを聞く。特別編集版で主題歌は英語版、イタリア語版、インストルメンタル版さらにその派生版、ついでにカラオケ版までが収録されている優れ物である。この主題歌は名曲というべきであろう。とどめにやはり一緒に買ってきた「スターシップ・トルゥーパーズ」のサントラを聞く。ベイジル・ポルドリウスの作品は全体に質が高いが、これは間違いなく最高水準にあると思う。


2000.05.03 wed. - 2000.05.07 sun.

ゴールデン・ウィーク後半。
予定では何か建設的なことをする筈だったが、生来の自堕落が災いして案の定、ただ近所の商店街をうろうろしながら食べたり飲んだり買ったりしていた。買っていたのは主に夏用の衣類である。たまたま迷い込んだGAPではオレンジ色のオーバー・シャツを購入した。持っている服はほとんど黒だし、どちらかと言えば細身の方が好きなのでゆったりしたカットのGAPの服にはあまり手を出したことはなかったが、そのあまりにも鮮やかなオレンジ色に、なんというのか、抵抗することができなかったのである。気がついたら大蟻食もほぼ同じ色のワーク・パンツを購入していた。流行色というのはけっこう恐ろしいと思ったりしている。
うろうろしている合間に斎藤忍髄「プラトン(講談社学術文庫)」を読む。イデア論に絞り込んだプラトンの注釈は著者による保留も含めて明晰である。また前段の内容を対照しながら後段ではプラトンの著作の該当箇所を抜粋していくという構成も面白かった。体系的な文献はあまり読まないのでたまに読むと記憶を整理するのに役に立つ(とはいえ後期の「法律」に関するコメントがないのが少々不自然に思えた。察するに混乱を避けるためなのであろうか?)。続いて二階堂卓也「マカロニ・アクション大全(洋泉社)」を読む。ほぼ四半世紀にわたる、徹底して趣味的なイタリアB級映画史である。「マラソンの戦い」などという史劇があったことは初めて知った。マカロニ・ウェスタンですらほとんどビデオがない状況では見ている人がただもううらやましいだけ。ちなみにこの五日間は映画を一本も見ていない。外出するたびにビデオ屋に寄っていたが時期が時期だけにめぼしい新作はいつも出払っていて、結局この期間に借りてきたのは「アリー・マイ・ラブ」(3)(4)(5)(6)のみ。アリーは相変わらず人格に問題があるし、リチャード・フィッシュは変態ぶりに輪がかかっていた。セクハラ問題の回で原告側弁護士をやっていた女優の顔に覚えがあるのだが、どこで見たのかどうしても思い出すことができないでいる。ところで「サウスパーク」の続きはどうなってるんだ?


2000.05.12 fri.

大蟻食と一緒に新宿のTSUTAYAへ。時間が遅いので新作はもう出払っている。旧作の方からそれぞれこれはと思うものを選ぶことにして、わたしはゴールデン・ウィーク中に「マカロニ・アクション大全」を読んだ関係からセルジオ・レオーネの「夕陽のギャングたち」にした。ビデオが出ていることは知っていたが、現物を拝んだのはこれが初めてだ。マカロニ・コーナーは前にチェックしたことがあるが、その時にはこれはなかったと思う。大蟻食はキッシンジャー博士への敬意から「キッシンジャー&ニクソン/合衆国の決断」にした。やはり3本は借りたいので大蟻食とわたしの関心の所在を時間をかけて調整し、選んだ結果がイエジー・カワレロウィッチのポーランド製エジプト史劇「ファラオ」である。帰宅の途中でベルギー・ビールを3本仕入れて、家に帰って、晩ご飯を食べながら 「キッシンジャー&ニクソン」を見る。


2000.05.13 sat.

雨である。雨なのでゆっくりと起きて日中は朦朧と過ごすことにして、ベッドに寝転んで宮崎駿の「雑想ノート」を読んでいた。今更言うまでもないことだが、宮崎駿の構想力というのはやはりとてつもない。多砲塔戦車悪役一号主演の映画をどうしても見たいと思うのは自然な反応であろう。続いて久々に「風の谷のナウシカ」を読み始める。夕刻に家を出て近所の洋食屋でオムライスを食べる。食事の後、コーラのペットボトルとポテトチップを買い求めてカウチポテト体制を整える。夜になるのを待ってテレビの前に腰を下ろし、ほぼ二十年ぶりで 「夕陽のギャングたち」 を鑑賞する。


2000.05.14 sun.

晴れ間が見える。気温はほとんど初夏並みである。午後になってから散歩に出た。人が沢山出ていて、スターバック・コーヒーでは冷たい物が飛ぶように売れていた。大蟻食は店の隅に置かれたアクセサリーの棚で紅茶用の怪しい道具を見つけて喜んでいた。Tazo Tea Travelなる代物で早い話が飲み口のついた携帯用のティーポットだ。大蟻食は同じ物を前にパリで見つけて持ち帰って、それ以来愛用している。喜んでいたのは、これでわたしにも同じ物を使わせることができると考えたからである。取り敢えず今回はパスさせてもらう。ぶらぶらしているうちに某英国ブランドの雑貨屋が消えて、その後に北欧ブランドの子供用家具の専門店が入っていることに気がついた。こういう光景を目撃すると、もう少し石鹸やクッキーを買ってあげればよかったのではないかとちょっとだけ思う。早速冷やかしに入って、腹を立ててすぐに出た。小さなベッドや小さな机が置いてあって、そのどれもが優等生的にすかしていて北欧的に気取っていた。こんな物を子供にあてがったりしたら、きっとろくな大人にならないであろう。怒りをぶちまけながら町を歩いてそのまま夕食の買い物へ。夜、大蟻食が作ったローポースンを食べながら 「ファラオ」 を見る。春雨と挽肉をレタスに包みながらテレビの画面を見るというのは少し難しい。


2000.05.20 sat.

一週間前に読み始めた「風の谷のナウシカ」をまだ読んでいる。これは何度でも時間をかけて読む価値がある。ストーリーを追うのではなく、じっくりと絵を鑑賞するのだ。アニメージュ版の6巻まで読んだところで(もったいないから)終わりにして、ビデオで 「トーマス・クラウン・アフェアー」を見る。


2000.05.27 sat.

「マカロニ・アクション大全」がまだ尾を引いているのだろうか。70年代初頭のイタリア製社会派サスペンス 「警視の告白」を見る。
その昔、シチリアの首都パレルモから内陸のモンレアーレまで車で移動したことがあって、途中に団地のごとき建物がずらりと並んでいるのを見て旧市街との対比にちょっと驚いた。地元の人々には失礼な話だが、古色蒼然としたマフィアの里というイメージを抱えていた私はパレルモにそうした近代的な風景があるとは予想していなかったのである。映画はその近代的な一帯の開発に関わるマフィアがらみの汚職の話で、「壁から指が生えている」とか「蛇口をひねると血が出る」などという台詞が登場する。開発に反対した地権者や組合幹部などをコンクリートで固めてビルの土台に埋めていたのである。
実はパレルモ滞在中に一度だけ、マフィアのように見える連中を目撃した。夕食を食べようと「ヴィラ・チェザーレ」という名のレストランに入っていったら、まず店長と思しき男がハリウッド映画の悪役系俳優ポール・シナーそっくりのハンサム中年で、注文した料理を運んできた男はこれも悪役系俳優ロバート・ダビのそっくりさん、しかもご丁寧に頬に刀傷がある。どっちも黒いスーツを実に見事に着こなしていて恐ろしく愛想のいい悪役笑いを浮かべていて、ロバート・ダビの方は料理をいちいちワゴンで運んできてわざわざ目の前で取り分けてくれる。パスタの果てまでそうするものだから、こちらとしては「冷める、やめてくれ」と言いたいところだったが、なんだか嬉しそうにやっていたので口には出せなかった。最後にフルーツを注文したら、これもやはりワゴンで運んできて、口元にやおら壮絶な笑みを浮かべるとナイフを取って切り始めた。察するにナイフ使いなのであろう。とどめにやってきたのが絵に描いたようなマフィアのドンとその一家で、太った親分とごてごてした女房、貧血気味なのか痩せて気力のなさそうな倅と健康そうに太ってはいるけれどやはり無気力そうな娘という四人組が店に入ってくると、店長のポール・シナーが両腕を広げてこれを迎えて親父殿と抱擁を交わしたのである。キッチュに汚染されたこちらの頭は老いたドンと駄目な二代目、隙間に潜り込んで乗っ取りを企む悪い番頭という構図を思い浮かべて感心しながら眺めていたが、あれは本物のマフィアだったのであろうか、それとも観光客用の演出だったのであろうか。オペラ劇場の裏手、海岸寄りにあった店だと記憶している。まだあるのかどうかは知らないが、行くことはあまりお勧めしない。料理がとにかくひどかったのである。


2000.05.29 mon.

レンタル・ビデオ屋の棚を見ていて、そうか、こんな映画もあったっけ、と思うことはよくある。だからと言ってそれでいつも借りてくるわけでもないのだが、なぜか今回は見ることになった。映画は 「炎628」である。 第二次大戦中にドイツ軍が白ロシアでおこなった農民虐殺を少年の目を通して描いた映画だが、そこに登場するドイツ軍というのがほとんどチュートン騎士団かフン族かという感じなのであった。


2000.05.30 tue.

帰宅後、大蟻食が作ったキャベツのカレー(ベンガル料理だ!)を食べながらイタリア製のけったいな映画 「殺人捜査」を見る。 見るのはこれで三度目になる筈だが、やっぱりけったいな映画なのであった。記憶にはジャン・マリア・ボロンテの奇怪な演技ばかりが残っていたが、改めて見直してみるとフロリンダ・ボルカンの出演シーンはかなりあって、そしてやっぱり美しいのである。
ローマに滞在していた時、ホテルのテレビをつけたらたまたま「水色の王子様」という番組をやっていた。視聴者参加型で、若い男が次々と現われて自慢の芸を披露して、それをずらっと並んだ怖そうなイタリアのおばさんたちが採点するという番組なのだが、その審査員の中にフロリンダ・ボルカンが、たしか特別ゲストのような扱いであったと思うが、いたのである。で、これが時を経ても相変わらず美しかったということになるのだが、フロリンダ・ボルカンと言えばやはり「評判の悪い女優」ローラ・モンテスを演じた 「ローヤル・フラッシュ」 ということになるのではあるまいか。


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