殺人捜査
- Aloysius' Rating: 8/10
Indagine su un cittadino al di sopra di ogni sospetto (Italy 1970, 114min.) Directed by Elio Petri Written by Elio Petri, Ugo Pirro Cast: Gian Maria Volonte, Florinda Bolkan, Gianni Santuccio, Orazio Orlando, Sergio Tramonti, Arturo Dominici, Aldo Rendine, Massimo Foschi

「1970年のローマ」という時代を背景に警察公安部長による殺人と、その捜査の異常な周辺を描く。殺す公安部長ジャン・マリア・ボロンテ(怪演)、殺される美女がフロリンダ・ボルカン(怪演)である。エリオ・ペトリのこれに先立つ作品「怪奇な恋の物語」を見ていればもう少し理解しやすいのかもしれない(ちなみにこちらはフランコ・ネロとヴァネッサ・レッドグレーブという組み合わせ)。
権力マニアで警察マニアで、おまけに死体現場写真愛好家でもある女が警察エリートの精神を散々に苛んだ上、さらに「1970年のローマ」という時代背景に与して男を革命家に乗り換えようとした結果、とうとう公安部長は壊れてしまいました、と考えても何も問題はないのだが、ラストシーンの後にカフカからの引用が出現することを手掛かりにしてカフカ的モチーフの延長で解釈していくと、公安部長は子供、途中で目撃者兼敵対者として出現する学生テロリストは父親という構図が出現してきて、その構図はさらにジャン・マリア・ボロンテの台詞、つまり権力を行使する者が父親であり権力を行使する者はしたがって子供であるという主張と、その後のフロリンダ・ボルカンによる公安部長の性的不能の指摘によって補強される。父権を主張する公安部長は女に無力を指摘され、さらに学生から声高に脅迫されることによって権力者として自動的に付与されていた市民への親権を喪失し、子供に転じて裁かれるのである。たしかにそう考えれば捜査活動の周囲をうろつく公安部長の奇怪な行動も、取り返しのつかないいたずらをしてうろたえている子供の仕種と見えないこともない。
世にも複雑で手間のかかった映画である。