バウンティ/愛と反乱の航海
- Aloysius' Rating: 7/10
1984年 アメリカ 133分
監督:ロジャー・ドナルドソン
出演:メル・ギブスン、アンソニー・ホプキンス、ダニエル・デイ・リュイス、ローレンス・オリヴィエ、エドワード・フォックス、リーアム・ニーソン


18世紀末。英国海軍軍艦バウンティ号はタヒチ島に産するパンの木を西インド諸島へ移植するという実験的な任務を帯びて南太平洋へ赴くが、タヒチから出港した後、航海士フレッチャー・クリスチャンを中心とする反乱が起こり、艦長ウィリアム・ブライはボートで洋上に追放され、バウンティ号を奪ったクリスチャンはタヒチを目指す。ブライ艦長は定員超過のボートによる大胆不敵な冒険航海を経て生還を果たし、報告を受けた英国海軍は反乱討伐のためにフリゲート艦パンドラ号を派遣する。だがバウンティ号及びクリスチャン航海士を捕捉することはできなかった。バウンティ号の反乱者たちは絶海の孤島ピトケアンに逃れたとされている。
以上は映画のストーリーではなくて、おおむねのところの史実である。そして史実に基づいて書かれた小説が過去に 「戦艦バウンティ号の反乱」「戦艦バウンティ」 として映画化されている。というわけで、原作は異なるものの、バウンティ号の反乱にまつわる物語はこれで三度目の映画化になる。反乱の首謀者フレッチャー・クリスチャンがメル・ギブソン、ブライ艦長がアンソニー・ホプキンス。どちらについてもこれまでで一番若い配役である(事件当時ブライ33歳、クリスチャン23歳)。この二人がすでに航海を共にした経験をもつという事実も採用されていて、そのせいで航海長のフライヤーが冷遇されていたというエピソードも織り込まれている。登場人物は常識的に等身大に描かれているし、タヒチへの航海もいたって普通に描写されていて全体的にリアルな内容だと思うのだが、「バウンティ」物としてはなぜかいちばん評判が悪い。察するに悪役としてのブライがまったく明示されていないというあたりに、そしてクリスチャンもまた善玉ではなくて衝動的なエゴイストのように描かれているというあたりに問題があるのかもしれない。とはいえ悪役ブライがいなければクリスチャンは反乱を起こせないという決まりも無残なように思えてならない。ひどくくたびれてたどり着いた場所が南海の楽園で、しかも子供まで出来てしまったから帰りたくない、というのは反乱を起こすのに十分な理由になるような気がするのだけれど、これはわたしがさぼりたい人間だからかもしれない。
この作品の場合、それよりも気になるのはブライの別方面における人物造形であろう。この映画ではブライを戯画化された暴君として描くのではなく、清教徒的な自己規定の持ち主で、まっとうな家庭人であり、野心を携えた軍人であり、名誉欲も備えていて、名誉の実現のためには部下にも自分と同様の禁欲を強いる、という、普通の職業軍人として描いている。いや、そう描くからこそ、なぜ失敗したのかという関心を抱くことができるのである。そしてどうやらその理由を説明するために、ブライ艦長がクリスチャン航海士を見つめる視線に同性愛的な色彩を加えているのである。少なくともわたしにはそう見えたのである。そこへもってきてフライヤーを演ずるダニエル・デイ・リュイスが怪しい雰囲気で目配せをしたりするものだから、ますますそういう解釈なのかという気がしてくる。実際、そう説明するとすっきりする部分もあるのだが、嫉妬に口を開いたブライ艦長といった描写の仕方がどうも唐突で戸惑うところが多いようだ。3本目に見る「バウンティ」物としては悪くないかもしれないけれど、いきなりこれを見たら首をひねることになるかもしれない。なお、軍法会議の場面ではローレンス・オリビエとエドワード・フォックスが、バウンティ号の粗暴な水夫の役でリーアム・ニーソンが顔を出している。

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