タイタニック
- Aloysius' Rating: 5/10
1997年 アメリカ 193分
監督:ジェイムズ・キャメロン
出演:レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンズレット、ビリー・ゼイン、キャシー・ベイツ
タイタニックが大西洋を進む場面は限りなく美しい。余計な話はなしにして、あのままニューヨークまで突っ走ってくれたらどれだけよかったろうか。
時代背景への配慮をまったく欠いていることと、それ以外にも多くの点でデリカシーの欠如を感じさせることはすでにうちの奥さんが書いていたと思う(
大蟻食の生活と意見(12)
)。 だからわたしは一時間も続く沈没場面の方に文句を言いたいのだ。まず、なぜドレスを着た女性の死体が美しく舞っていなければならないのか? キャメロンはあれで芸術映画監督の仲間入りでもしたつもりなのか? 寝台の上で抱き合っている老夫婦の場面は不快なだけで意味不明だし、自分の映画では何がなんでも銃器による殺人がなければいけないとでも思っているのか、船員は乗客を撃ち殺すし、ビリー・ゼインは下品な象牙の刻印のあるM1911を撃ちまくる。そしてとどめに監督自らが船体を二つに割って海上の漂流者の上に叩き付けるのである。これはかなり不愉快だった。タイタニックの事件がすでに悲劇であることは確認されているので、それを殊更に残酷に見せる必要がいったいどこにあったというのか。実際にあの場に居合わせた人々がいるという事実を忘れている。前半でそうした人々のモラルの問題を黙殺し、後半ではデリカシーに挑戦するというこの野心的な演出には、わたしはとてもではないが耐えられない。ついでながら劇中でビル・パクストン扮する不愉快な「墓荒らし」が洋上で船体が割れたことを定説であるかのように話しているが、あれは可能性の一つであって決して定説ではないのである(もちろん選択するのはキャメロンの自由だが)。沈没シーンで感心したショットは一つだけ。信号弾を打ち上げているタイタニックのロングショットである。発光信号の低さが孤立感を否応もなく盛り上げ、印象的だ。
裏返せば人間が関わる部分は全部だめ(キャシー・ベイツの不沈モリー・ブラウンは悪くなかったが)、ということでこれならば同じセットを使って作ったテレビ映画
『ザ・タイタニック』
の方がいくらかましだし、70年代に安く作られたテレビ映画
『失われた航海』
の方がばかげた仕掛けを使っていないぶん、よほどによく描けている。まあ、
1943年のドイツ製
はともかくとしても、あの傑作
『S.O.S タイタニック』
とはとてもではないが比較できないのである。
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