アメリカン・サイコ
- Aloysius' Rating: 5/10
American Psycho (USA/Canada 2000,102min.) Directed by Mary Harron Screen play Mary Harron,Gunevere turner (novel:Bret Easton Ellis) Cast:Christian Bale,Willem Dafoe,Jared Leto,Josh Lucas,Samantha Mathis,Matt Ross,Bill Sage,Reese Witherspoon,Cara Seymour,Justin Theroux,Guinevere Turner

ブレット・イーストン・エリスの同名の小説の映画化。27歳のパトリック・ベイトマンは証券会社の副社長でビジネスエリートとしての完璧な外見を備えているが、なにしろ親の会社だということでまったく働いていない。筋肉トレーニングに励んで腹筋1000回を誇り、ブランド品を家に並べてアルマーニの服を身にまとい、流行の店へ足を運ぶということを除けば後は人を殺しているだけ、という男なのである。こういう克己心に乏しい生活をしていると精神の方がどうしても惰弱に流れて衝動的な殺人に流れ、精神状態が悪化してくると殺した後の整理もつかない、というのが原作であったが、残念ながら映画の方はそうなっていなかった。原作の主要なエピソードはかなりきちっと映像化されているものの、冒頭からベイトマン自身のモノローグで始まり、そこに自覚的な要素としての生存状態の苦痛を織り込んだために致命的な単純化が発生している。つまり、映画版のベイトマンは心に痛みを抱えていて、その痛みを他人に伝えるために殺人を犯していたようなのである。これは、わたしが知っているベイトマンではない。原作のベイトマンはビデオを見たり、マスタベーションをするのとほとんど同じ次元で人を殺しているのであり、きわめて個人的な行為として完結してしまっているため、社会からの干渉を受けない。映画版も社会からの干渉を受けずに終わるが、これはどうやら孤独だからという説明になっていたような気がする。原作のベイトマンも孤独だが、ここが肝心な話で、本人はそのことを知らないのである。まったく無自覚に牢獄に放り込まれているから恐ろしいのであり、だからこそブランドまみれも恐ろしいのであり、だからブランドにまみれた集団の中で、個人の区別を見失っているのである。残念ながら、映画はベイトマンに無用の自覚を要求し、その結果、80年代末のウォール街のきわめてバブルな状況も、仕掛けとしてではなく単なる風俗として描いて終わってしまっている。 「ファイト・クラブ」 の後で、これはなかろうというものではあるまいか。