トロイ
- Aloysius' Rating: 7/10
2004年 アメリカ 163分
監督:ヴォルフガング・ペーターゼン
出演:ブラッド・ピット、エリック・バナ、オーランド・ブルーム


ミュケナイの王アガメムノンが世界征服の野望を抱いてテッサリアへ軍を進め、スパルタの王メネラオスはトロイアとの平和を願って自らの宮廷にプリアモスの二人の息子ヘクトルとパリスを招いていた。ところがメネラオスの妻ヘレネは夫を嫌い、トロイアの王子パリスと関係を持って出奔し、メネラオスは怒りを抱いて兄を訪れ、弟の訴えを聴いたアガメムノンはこれ幸いと全ギリシアの兵力を集め、一千隻の船に乗り込ませてエーゲ海の対岸にあるトロイアの国へ攻め込んでいく。トロイアの側の頼みの綱は英雄ヘクトル、対するギリシアの側の頼みの綱は英雄アキレウスであったが、ヘクトルが父王プリアモスに敬意を払い、また見識を示すこともあるのに対して、アキレウスはアガメムノンに敬意を払わず、また人前にあっては一切の見識を示そうとしない。そこでアガメムノンは悪意からアキレウスの戦利品、つまり頬うるわしきブリセイスを奪い取り、アキレウスは怒りを抱いて船の陣屋にこもって出陣を拒む。一方、対峙する両軍のあいだではパリスとメネラオスの決闘があり、敗北を喫したアカイア勢は船の陣屋へと駆け戻り、パトロクロスはヘクトルによってとどめを刺され、アキレウスとヘクトルと決闘があり、プリアモス王は深夜アキレウスの陣屋を訪れるが、土地勘があるので導きの手は必要としない。そして木馬が出現し、トロイアは落城し、ひどく若いアイネイアスが老人を背負って旅立っていく。
ヘレネ誘拐からトロイ落城まで、おおむね一か月という感じであろうか。十年はかかっていないのである。だから話が駆け足になるのは当然だが、アキレウスに話を絞って、ついでに頭も絞ってアキレウスの存在を最後まで持たせている。アガメムノンの周囲もメネラオスを除けばオデュッセウスとネストルくらい、アイアスは半分に減らされている。『イリアス』の確信犯的でモダンな再話だと思っていれば、とりあえず恐ろしいことは何もないが、ギリシアとトロイアの対立関係を近代的な国家観で説明したせいで単なる略奪戦争という形式が後退し、最後の落城の場面はいささか説明が苦しくなっているように見える。本来的には地中海型家父長制度を背景にした旦那衆がそれぞれの理由で王を名乗り、理由をつけて略奪に来ているだけなので、そこをいじるとだいぶ違った雰囲気にならざるを得ない。反面、いじらなければ分かりの悪い話になるのは避けられないわけで、ここは好みの分かれるところであろう。演出は質実な直球勝負で芸がない。とはいえ、わたしはそれをヴォルフガング・ペーターゼンの持ち味だと考えているし、そしてその限りにおいては実に正直な「大作史劇」を手間をかけて作っているわけで、悪いことは何もないのである。むしろギリシア的な雰囲気を創造的かつ空想的に再構築しているという点で、積極的に評価したい(そういう意味では 『グラディエーター』 に似ていなくもない)。それにホメロスにきちんと敬意を払っているような痕跡もあって、荒涼とした海の浜辺で波が騒ぐし、致命傷の受け方がホメロスに書いてあるような感じになっているし、戦車は英雄を運ぶためだけにしか使われていなかったのである。ただ、個人的にはやっぱり大きな石を投げて戦ってほしかった。石が冷遇されていたような気がする。
ブラッド・ピットのアキレウスは予想に反してきわめてよかった。もちろんホメロスのアキレウスというものではなくて、あくまでもブラッド・ピットのアキレウスではあったが、駿足の、という当たりに注目してやるとこういうことになるのではあるまいか。文句はない。エリック・バナのヘクトルもまずまずだと思う。オルランド・ブルームのパリスは、パリスだからあんなものであろう。ピーター・オトゥールのプリアモスも、プリアモスだからあんなものではないだろうか。戦うブリセイスが登場し、しかも強い。ショーン・ビーンの気弱そうなオデュッセウスというのは悪くなかったと思うが、アガメムノンとメネラオスの単純すぎる造形にはかなり戸惑った。
意外な見どころだったのがアキレウスとヘクトルの決闘の場面で、殺陣を30人がかりで考えたというだけであって、ちょっとない迫力になっている。この決闘に限らず、戦闘場面の殺陣は実に見事な仕上がりで、これだけでもこの映画を見る価値のあるものにしているが、加えて素晴らしいのが美術であろう。それらしく復元された五十櫂船をかなり細かく見ることができるし、船の陣屋と短い言葉で片づけられているものが豊かなバリエーションで登場する(パオには驚いた)。騎兵はあぶみを使わずに馬を駆っていた。道広きトロイアの町の道は狭いが、復元された姿はいかがわしいくらいにエキゾチックで、住民の衣装も含めてよく考えられている。木馬のデザインは傑出している。武具のたぐいでもよくできていて、いちいち考古学資料からインスパイアされたようなデザインになっているのが面白かった。ちなみにアキレウスの盾は木枠に青銅の板を張ってある、という設定になっていたように見えた。いろいろと目の保養になるし、見ごたえもあるしで、この2時間40分は長くない。

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