愛の奴隷
- Aloysius' Rating: 7/10
Raba lyubvi (USSR 1976, 94min.)
Directed by Nikita Mikhalkov
Written by Fridrikh Gorenshtein , Andrei Konchalovsky
Cast: Yelena Solovey, Rodion Nakhapetov, Aleksandr Kalyagin , Oleg Basilashvili , Konstantin Grigoryev
風光明媚な黒海沿岸の土地では映画の撮影が華やかに進められているが、その遥か北には白軍の前線があり、モスクワには革命政府が樹立されている。革命勢力はすでに地下勢力として黒海地方に浸透し、現地の憲兵隊はその掃討活動に余念がない。美貌の女優オリガが主演する新作映画の撮影はフィルムの不足で中断し、間もなくモスクワから逃れてきた製作スタッフの一団は口々に生活の困難を訴える。それでもようやくフィルムが手に入って撮影再開が可能となったが、相手役の男優は革命を支持してモスクワに残り、こちらではカメラマンが実は革命家で不審な行動を繰り返している。美貌の女優、金髪のカメラマン、若い憲兵隊長、敵も味方も皆知りあいという小さな世界がたいそうポリフォニックに描かれていて、それが見ているだけで心地よい。撮影現場の下々のスタッフも、その辺のウェイターも、みんなちゃんと何かをやっていて、しかもこれがミハルコフの映画のすごいところだけど、やっている何かに生活に根差した連続性が見えるのである。みんな生きているんだな、という感じがする。そしてそうした描写があまりにも生き生きとしていて、そこへ暗い影を投げかけるのが彼方にあるモスクワであり、あるいは接近する革命の気配であり、その影のあまりの色濃さにほとんど反革命映画ではないのかという気すらしてくるのだが、つまり日常生活の卓越した描写のせいで、変容する世界への予感が恐怖と反発へと転化されてしまうのである。女優は革命の流れに巻き込まれ、革命家のカメラマンは広場の真ん中で悲劇的な死にみまわれ、憲兵隊長が疑問の多い最期を遂げると女優は朝日を浴びる電車に乗って、騎兵に追われながら霧の中へと消えていく。情に通じる場面がことごとく美しく見えるのは、撮影に使われたソヴカラーのせいだけではないだろう。